DELFONICSにとって特別なロルバーン、Rollbahn Cap-Martin(ロルバーン カップ・マルタン)。4回目となる季節のコラム、テーマは「春の言い訳」です。
パンデミックを経て「買いものをする」ことの意味と色あいが、ほんの少し染め変えられている気がします。物欲にまかせ、流行りものに飛びつくような「消費」から、どこで買うか、誰から買うか、より本質を見つめ、自らの充足を生むための「生費(“しょうひ”)」へ。ロルバーン カップ・マルタンの監修を務めるデザインディレクターの佐藤達郎も、そんな気分を感じているひとりでした。
今回は、そんな「もの選び」や「もの作り」に関する考察と、最近佐藤がした「買いもの」について。並べられたものたちはジャンルやテイストこそ違えど、基本はスタンダード。けれど時代の気分に合わせて、微妙にチューニングされている。考察と照らし合わせながら目を凝らしてみると、筋の通った軸のようなものが浮かび上がってくるのでした。
― 今はもう街はにぎわいが戻りつつあるようだけれど、じゃあ自分も前と同じような行動様式に戻ったかというと、そうでもなかった。とくに買い付けで選ぶものに関しては昔のほうが、あの頃のほうが、がむしゃら感があったよね。
モチベーションが、「もの」だった。古物とか、グラフィックとか、いかに効率よく見るか、手にするかが主軸だった。やっぱり仕事だからやりきらなきゃ、という思いもあった。でも今、そういうのがひと息ついたような感覚なんだよね。(佐藤)
ただ、ものが嫌いになったわけじゃない、と佐藤は強調します。
― 好きさ加減は変わらない。ただがむしゃらさがなくなった分、落ち着いて、本当に欲しいものだけ買おうと思ったというかね。俯瞰でみられるようになった。前は余計に手にしていたものも、そこまで買わなくなった。それがバイヤーとしていいかどうかはわからないけれど。(佐藤)
ただ「行って、買って」じゃない。きっともっと、大事なことがある。それはパンデミックを経て、数年ぶりにデルフォニックスのパリ店を訪れた時にも感じたことでした。
― 心と心の交流が大事、そう思えたことが大きかった。今後の店の方針についても、以前ならもう少しビジネスライクに考えていたかもしれない。けれどスタッフと話していると、この間、店を守ってくれたことに対する思いもあり、「彼らのためにもやってやりたい」と思ったんだよ。前を向くきっかけにもなった。そしてスタッフを上から引っ張るとかじゃなくて、横で、いや、むしろ下から支えていきたいという気持ちが新たに迫り上がってきた。(佐藤)
もし世の中がこのような状況になっていなかったら、気づくことすらなかったかもしれないこと。
― いいきっかけだったかもしれないね。間があいたことによって、優先順位に気づくというか。違うところから燃え直している。そんな感じなんだよね。(佐藤)
ではバイヤーとしてではなく、個人的に「買うもの」については、どうでしょう?
― 物欲って、減ってくるよね。そんなにいうほど、欲しいっていうものが見つからない。だから最近になって買ったものは、どこか超えたものだよね。それだけそのもの自身の力や、魅力があるもの。一生持っているだろうと思えるような。ま、これも言い訳かもしれないけれどね。
そういう意味で我々が生み出していきたいのも、ものだけじゃなくて「欲しいと思う気持ち」なんだと改めて思った。「欲しいを創る」。店という空間、空気感のなかで、ものを探すという行為。楽しい、ワクワクする、この感覚を売る仕事なんだと。これが我々の役割であり、取り組みとしての仕事なんだと思えた。(佐藤)
2022 Summer “BLUE” からスタートしたこちらのコラムは、今回で季節を一周しました。この先も続くカップ・マルタンの展開に、ぜひご期待ください。