Home > 特集 > 柳本浩市さんとデルフォニックスのアフターアワーズ

2016年に46歳で急逝されたデザインディレクター、柳本浩市さん。
デザインに関する膨大な知識を持つ彼とは、
デルフォニックスも深い交流を持っていました。
突然の訃報の後、同じく柳本さんを想うメンバーや企業が集い、
柳本浩市展実行委員会を結成。
2017年に、デルフォニックス敷地内にある「six factory」にて、
追悼展が開催されました。
本企画展の記録集が、2022/4/4(月)に発売されます。
発売に合わせて、柳本浩市さんと
デルフォニックスの思い出を振り返りました。

Campaign
『柳本浩市 ARCHIVIST』

著者:柳本浩市展実行委員会、柳本浩市
編集:上條桂子、熊谷彰博
撮影:小川真輝、Nacasa & Partner Inc.、高木康行、永禮 賢
スタイリング:郷古隆洋
アートディレクション:グルーヴィジョンズ   【商品を見る

柳本さんとの仕事
デルフォニックス1号店で始まった企画展

柳本浩市さんとの仕事を振り返るとまず思い出すのは、デルフォニックスギャラリーの企画展です。1997年、渋谷パルコのB1階にオープンしたスミス1号店が、2001年にフロア内で移転するタイミングでデルフォニックスへと店名を変更。さらにその後の2002年、渋谷パルコの30周年に合わせ行った2回目のリニューアル時に、店舗内にギャラリーをオープン(現在は閉店)。渋谷の風景も20年以上を経て大きく変わりましたが、当時は、デルフォニックスと同じようにショップが主体となってギャラリーを持ち、店とその街からカルチャーを発信しはじめていました。

柳本さんとの初企画「Neue Grafik展」

ギャラリーの初企画は、「Neue Grafik展(ノイエ・グラーフィク展)」。デルフォニックスのデザインベースにも深く通じる、スイスグラフィックの企画です。デルフォニックスが所蔵するポスターを柳本さんが監修して展示しました。この頃はまだ、デルフォニックス、スミスが全国へ拡大していくとは自分たちでも思っていなく、ただ目の前で次から次へと売れていくポスターに、スタッフも柳本さんも一緒に驚いていたことを思い出します。渋谷系と言われるピチカートファイブが解散した翌年の2002年。新たな時代の風が街に流れはじめていた頃の話です。

ヨーロッパへのデザインリサーチ

デザインディレクター佐藤が、当時(2002年頃)在籍していたデザイナーである柳本鈴香さん(柳本さんの奥さん)に、北欧にリサーチに行きたいなと話していたら、「北欧に行くなら、主人がとても興味を持っていて…」と言われ、急遽3人で行くことになりました。小さな印刷物やプリント式番号札など、アノニマスな紙モノを一心不乱に集めたヘルシンキの郵便局。コペンハーゲンの古本屋では、競うようにデザイン本を探しました。背伸びをして手に取ろうとした一冊がすっと棚から無くなり、目で追ったその先に「あぁっ、柳本さん!」、みたいな(笑)。

深夜まで盛り上がるデザイントーク

2003年、柳本さんは書籍「Departure」を出版。世界の航空会社のグラフィックデザインを収集したコレクションです。そこに佐藤がコラムを寄せています。同じ頃、デルフォニックス渋谷のギャラリーでは「Airline Graphics展」が行われ、柳本さんのコレクションも多く展示販売されました。また、2005年には「paperback展」を開催。記録集にもかかわっているグルーヴィジョンズと作ったブラックベアのステーショナリー。そのお披露目となる本展をプロデュースしたのも、柳本さんでした。目黒にあるデルフォニックスの事務所に打合せに来ては、仕事を忘れて深夜までデザインの話で盛り上がることも。

柳本浩市展 2017年

Photo:Nacasa&PartnersInc

柳本さんがつないだ新しい仲間

今から5年前となる2017年の初夏。デルフォニックス本社敷地内にあるスペース、「six factory」で柳本さんの追悼展を開催。会期が進むにつれて口コミが広がり、ときにはうっすらと汗もにじむような初夏の青空のもと、長蛇の列ができていました。ランドスケーププロダクツの中原慎一郎さん、ウェルカムの横川正紀さん、設計事務所imaの小林恭+マナさん、Swimsuit Departmentの郷古隆洋さん、そしてデザインジャーナリスト土田貴宏さん、デザイナー熊谷彰博さんという柳本浩市展実行委員会のメンバーと、柳本さんを通じてつながりが深まったのもこの時期です。

アーキヴィストの熱狂

追悼展は、実行委員会のメンバーから周囲へと伝わり、たくさんの企業にもご協力と協賛をいただいています。ボランティアとしても多くの方が参加し、1つずつ収集品を分類して考察し、見た目にも美学をもって丁寧に並べ、並べ直し、実行委員会のメンバーも学芸員さながら毎日のようにその場に立ち、来てくださったみなさんと交流しました。オリンピック関連の資料から、世界の日常を支えるアノニマスなグラフィックまで。それら資料の価値はもちろんのことですが、これだけの人が訪れたのは、柳本さんのアーキヴィストとしての熱狂が、モノにも、人にも伝播したからでしょう。

記録集『柳本浩市 ARCHIVIST』

Photo:小川真輝


Photo:小川真輝
情報化社会において未来を生み出す人へ

2017年の展示が、1冊の記録集となり2022年4日4日に発売。デルフォニックスでは、直営店のデルフォニックス大阪、スミスとDELFONICS WEB SHOP各店にて販売します。記録集は、展示会でも多くの人がより長く滞在していたファイリングコーナーの資料を収録したもの。収集と整理、そして価値を見きわめてアーカイヴをつくり、未来へ発展させていく「アーキヴィスト」。そんな柳本さんの論考が詰まった本書は、デザイナー、編集者、キュレーター、収集家、そして情報化社会において未来を生み出す皆さんに、手に取っていただきたい一冊です。


Photo:永禮賢
柳本さんとのアフターアワーズ

最後に、デルフォニックスのデザインディレクター佐藤より感謝の気持ちをここに。「デザインという言葉が今、日常にあふれるようになりました。それは間違いなく、柳本さんの存在も大きく寄与されたと思います。お店が好きで、よく遊びに来てくれて、深夜までデザイントークで熱狂したあの頃。ミュージシャンがライブのひけたクラブの閉店後に、今度は自分達の本当に好きな楽曲を仲間たちと思う存分自由にセッションを楽しむ。これをアフターアワーズというらしい。仕事を終え、柳本くんと明け方まで続くデザイントークのアフターアワーズ、それは本当に至福の時だった。柳本くん、ありがとう」

Itemアイテム

記録集『柳本浩市 ARCHIVIST』
価格:4,400円(税込)

商品を見る