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2019.8.2 世界最高峰の鉛筆「BLACKWING」ブランドマネージャーは、なぜ日本製にこだわるのか


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1本 380円の鉛筆「BLACKWING(ブラックウィング)」。WEB SHOPで取り扱う鉛筆で、シャープナーなどの付属品がない、単体の鉛筆で最も高価なものがBLACKWINGです。木軸と金属のパーツを組み合わせ、長方形の消しゴムが付いた独特な形。美しいデザインと滑らかな書き心地を備えた鉛筆には、その価格に相応しい理由がありました。“高級鉛筆”とも言われるBLACKWINGが大切にしていることは何か、来日したブランドのキーパーソンに聞きました。


Alexander Poirier
アメリカの鉛筆ブランド「BLACKWING」ブランドマネージャー。音楽に造詣が深く、英文学を学んでいる

Q. BLACKWINGのブランドマネージャーとは、具体的にどのような役割ですか?

BLACKWINGのすべてを統括しています。商品を企画して実際に作り、形にするまでの工程や、今後どのようなアイテムを作るかなど、仲間の中心となって考えています。いわば、BLACKWINGのストーリーテラーと言ったところでしょうか。様々なブランドとコラボレーションアイテムを作るなど、外部との連携を取りまとめることも私の仕事です。

Q. 商品の企画もされているのですね。デザインする上で大切にしていることは?

まず、見た目のデザインの美しさと機能性を重んじています。それと同時に「ストーリー」を大事にすること。商品には、なぜ私たちがこのアイテムを作り、何を伝えたいのか、というストーリーを設定しています。商品だけを届けるのではなく、私たちが投げ掛けたい想いを込めているのです。そうでないと、ただの鉛筆になってしまう。ですから、BLACKWINGのすべてのアイテムは、ストーリーを秘めて完成するのです。


定番の1本。マットブラックの木軸に、BLACKWINGを象徴するゴールドの金具と黒の消しゴムが特徴

Q. その「ストーリー」とは、どういったものですか?

BLACKWINGには2種類あります。定番品と、年間4種類を発表する限定品の「VOLUMES(ボリュームス)」で、ストーリーを色濃く反映しているのが限定品です。特定の映画や音楽、場所や人物などの具体的なモチーフを決め、そこから連想して鉛筆をデザインしますが、色や柄といった表層的なことだけで商品を作っているわけではありません。選ばれる色、施される柄にはすべて理由があり、使う方へのメッセージが込められています。

Q. 例えば、グリーンが印象的な限定品「811」ではいかがですか?

「811」は図書館をモチーフにしたモデルです。ピックアップしたのは、詩人のマヤ・アンジェロウ。彼女はニューヨーク公共図書館で2010年に披露したスピーチで、幼い日に初めて本を借りた質素な図書館を「雲の中の虹」と詩的に喩えています。「今が最悪だと思う時、自分が惨めに思える時、気持ちが晴れないとき、どんな時でも、図書館では希望の兆しを見出すことができる」と話したのです。ここから、私たちは「the Library of the Hope(希望の図書館)」というコンセプトを作りました。図書館で使われるグリーンとゴールドの「バンカーズランプ」をモチーフに色合いを仕上げ、暗闇で光る特殊加工を軸に施しました。鉛筆そのものが「図書館」と「希望の光」を表現しています。この「811」で私たちが投げ掛けたいのは、図書館に象徴される発想の自由さや明日への希望、やりたいことへのチャレンジです。とても難しい表現ですが、私たちが大切にしている「ストーリー」とは、商品を通じて大きな概念を投げ掛けるようなことなのです。


図書館をモチーフにした「811」は暗闇で光る特殊塗装が施されている。アメリカでは即完売となったモデル

Q. なるほど。限定品にはモデルナンバーがありますが、なぜナンバリングをするのですか?

私の頭の中には、デザインの元となるストーリーをいくつかストックしています。その中から1つを選んでブラッシュアップし、まずはモデルナンバーを決めます。その後に色や形のデザインを行います。デザインはあくまでストーリーの延長線上にあるもの。その過程には、ストーリーを象徴するナンバリングがある。私たちの思いを象徴するのがモデルナンバーです。

Q. 先ほど伺った「811」では、どんな意味合いから決定していますか?

「811」とは、図書分類法のひとつである「デューイ十進分類法」のセクションを示す数字です。図書館の棚が番号で区切られているのですが、100番台は哲学、200番台は宗教とジャンルごとに所蔵されています。その800番台が文学で、そこから10桁の数字で細分化されていきます。このモデルのモチーフ、マヤ・アンジェロウの著書が収録されているのが「811」。ナンバリングは、私たちのコンセプトをより言語化できるひとつの手段なのです。

Q. モデルナンバーと同様に、商品ごとに芯の硬度も異なっています。HBや2Bといった表記ではなく、独自の硬度表記を設定していますね。

はい、BLACKWINGの硬度は独自で設定しています。「811」に選んだ硬度はファーム。文学的で文字を書く人にフォーカスしたモデルなので、硬めの硬度に仕上げました。ほかの限定品で、音楽をモチーフにした「1」の硬度は、硬過ぎず柔らか過ぎないバランス。ソングライティングをするのに最適な芯を選んでいます。モデルごとに選ばれる芯の硬度も、ストーリーの延長線上にあるものと考えています。


芯の硬度は柔らかいソフト、硬めのファーム、中間でスムーズなバランス、最も硬いエクストラファームがある

Q. 商品のデザインは、やはりBLACKWINGで手描きするのですか?

いいえ、手描きではなくデジタルで行っています。鉛筆の形は普遍的なものですから、線画のシルエットデータをキャンバスとしてイラストレーターを使って考えていきます。色や表面の艶、模様を描いたり、グラデーションを施したり。もちろん、アナログで考えたいときにはBLACKWINGを使います。私は普段パソコン、スマートフォン、iPadなどのデジタルを主流に使っていますが、ふと切り替えて鉛筆を持ち、紙にアイディアを書き出します。BLACKWINGはアナログなツールですが、デジタルを決して否定するものではありません。デジタルとアナログのバランスが取れたスタイルを提案したいとも思っています。


Alexander Poirier氏によるデザインデータ。鉛筆が美しい図面のように描かれている

Q. では、生産工程でこだわっている点は?

BLACKWINGの製作工程の大半が、実は日本製なのです。木軸は北米産のインセンスシーダーという木で、北米カリフォルニア州とオレゴン州にだけ自生する柔らかな木材です。家具などには適さないものの、鉛筆の滑らかな書き心地を叶える最高の木材。これを日本に輸入し、日本産の黒鉛芯と合わせて軸に加工していきます。

Q. 日本での生産を選んだ理由は?

それはクオリティーです。日本の技術は素晴らしく、私たちが目指す最高峰の仕上がりを実現してくれます。もともと、BLACKWINGは1998年に一度生産中止となり、その後2010年に、鉛筆用木材のリーディングサプライヤー、CCPC(カリフォルニアシーダープロダクツカンパニー)が復刻し、現在に至ります。このCCPCの中にある鉛筆部門「PALOMINO(パロミノ)」で復刻されたのですが、BLACKWINGの生産以前に、PALOMINOのオリジナル鉛筆が日本製の軸と芯を使用していました。高品質であり、以前のBLACKWINGと質感が近しいことから、日本での生産を採用したのです。


BLACKWINGの生産を手掛ける日本の工場。今回の訪問では、加工できる軸の形をディスカッションしたそう

Q. 日本で作られるのは、軸のみですか?

はい、日本では芯と軸の加工を行っています。日本国内でも芯を作る工場、木材を軸に削り出す工場、色を付ける工場など、工程ごとに工場が分かれ、熟練の職人の方に手掛けてもらっています。消しゴムと金具はベトナム製です。ベトナムのサプライヤーも素晴らしい技術を持っています。日本とベトナムから加工したパーツを私たちの本国、アメリカに集めて特殊な機械でセットアップを行います。ですから、世界中から最高のものを集めて1本が完成するのです。

Q. 1本が出来上がるまでに、そこまで細分化されていることに驚きました。

確かに細分化されていますが、それは一切の妥協がないことの表れです。どのパーツにもこだわり、ハイクオリティーな1本を追求しています。日本の工場には定期的に訪れていて、今回も伺いました。日本で生産されるパーツに何の不満もありませんから、職人の方にはこれまで同様に感謝を伝えました。BLACKWINGに携わる以前、日本は伝統を重んじる文化があるとイメージしていました。実際に日本を訪れ、職人の方と言葉を交わし、その技術に触れ、私のイメージは間違っていないと確信しました。日本の素晴らしい技術力を肌で感じたことは、とても大きな喜びです。


日本の工場内のポートレート。使い込まれた専用の機械と職人の技術により、BLACKWINGが生まれる

Q. では、本国のBLACKWINGのチームについて教えてください。

現在は、CCPCの中の鉛筆部門として17名がいます。一人一人がスポーツや音楽、アートなどに造詣が深く、クリエイティブなスタッフが集まっています。お互いを刺激し合える大切な仲間です。オフィスの中にはデスクだけでなく、卓球台や楽器を弾けるスペースもあります。仕事だけでなく、リラックスできる空間があることで、オンとオフを切り替えられる。私たちのオフィスには、新しいアイディアが生まれる空気で満たされています。

Q. 皆さん、やはりBLACKWINGを使っているのですか?

もちろんです。私は硬度の硬いものを好んで使っていますし、仲間たちも愛用していますよ。BLACKWING以外にも鉛筆を作る者として日本メーカーのアイテムにも注目しています。三菱鉛筆、トンボ鉛筆、北星鉛筆など、いくつかのアイテムを試し書きすることもあります。ですが、デスクの上にはやっぱりBLACKWINGがあります。FIELD NOTES(フィールドノート)、Kaweco(カヴェコ)のペン、RHODIA(ロディア)のメモ、iPad、音楽を聴くためのAirPods、そしてBLACKWING。これが私のスタンダードアイテムです。

Q. ありがとうございます。最後に、今後発売されるモデルのヒントを教えてもらえますか?

今後も新しいアイテムはスタンバイしていますが、詳細は控えさせてください。なぜなら、本国アメリカでサブスクリプションサービスを行っているから。事前に契約をいただいたお客様へ、年間4種類の限定品をどこよりも早くお届けする定期購入のサービスです。そのため、新しいアイテムはお客様に一番早くお届けしたいのです。ただ、世界中で関心の高いトピックに関したモデル、とだけお伝えします。ぜひ楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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